ランチョンテクニックとは?|「YES」を引き出す一皿の法則

  1. この記事を読むと・・・
  2. ランチョンテクニックの基本原理が理解できる。
  3. スティンザー効果を併用することの意義が分かる。
  4. 交渉や提案を仕掛けるべきタイミングが分かる。

ビジネスの会食



食事を通じて心を開かせるランチョンテクニック

交渉の席で、どれだけ数字や資料を揃えても、理屈では動かない相手がいる。

ロジックで動かない相手ほど、人は「理屈ではないもの」で動く。

そこで、そんな相手に対して効果的なアプローチが、食事を通じて心を開かせるランチョンテクニックだ。

米国の心理学者グレゴリー・ラズラン(Gregory Razran, 1938)は、被験者にスローガンを見せながら食事をふるまう実験を行った。

すると、同じ内容でも、食後の方がより好意的に受け取られることが分かったという。

つまり、人は「快い感情」を抱いている時、その場で聞いた言葉や情報までポジティブに感じやすくなる。

温かい料理と穏やかな空気の中では、理屈よりも感情が先に動く。理屈では届かない心の壁を、食事の時間が静かに溶かしてくれるのだ。

【参考情報:「ランチョンテクニック」とは?ビジネスに使える心理学⑤|オンスク.JP

相手の心が開くのは食後 満たして待つ交渉術

食後の脳は、「理性」よりも、「満足」によって支配されている。セロトニンやドーパミンが分泌され、血糖値が上がることで心が穏やかになる。

米国国立衛生研究所の報告によれば、満腹時になると扁桃体の反応が抑制され、自然と警戒心が下がるという。

つまり、相手の「聞く準備」が整うのは、まさに食後だ。温かい料理で満たされた後の心は、警戒よりも安堵に支配されている。

こちらが急ぐほど、相手の心は閉じていく。だからこそ、焦らず、その瞬間を見極めることが大切である。

やがて、相手の表情がゆるみ、会話が自然と流れ出す。交渉が動くのは、そんな瞬間だ。

向かい合うか、隣に座るかが左右する交渉の行方

食事をともにする場では、「どこに座るか」も相手の心理に静かに影響を与える。

社会心理学者アルバート・スティンザー(Albert Stinzor, 1961)は、人は正面にいる相手よりも、斜めや隣にいる相手の方が心理的な距離が縮まりやすいと指摘した。

これが、会話の受け取り方や心の開き方に影響するスティンザー効果だ。

ランチョンテクニックが「食事そのもの」で心を緩めるなら、「席次」はその緩みを、抵抗なく会話へとつなげるための配置調整と言える。

真正面に座れば、どうしても構図が対立的になり、意見交換が「向かい合う」関係として認識されやすい。

一方、斜め45度や横並びに座ると、視線と体の向きが一致し、心理的な協調が生まれやすくなる。

温かい料理が相手の警戒をほどくなら、座る位置はその安心感を崩さず、自然な流れへ変えるための設計だ。

食事を選ぶ前に、どこに座るかを決める。

その小さな配慮が、ランチョンテクニックの効果を、より確かなものにする。

【参考情報:「スティンザー効果」とは? |日本の人事部

食後のひと息つく時間が生む「提案の通り道」

食後のコーヒータイムは、もっとも提案を切り出すタイミングに向いている

なぜなら、相手の心がもっとも落ち着き、判断が安定しやすい時間だからだ。食事で満たされた後は血糖値が安定し、空腹時のような防御反応が起きにくい。

さらに、食事という区切りがつくことで、会話のテーマを切り替えやすい「小休止」の空気が生まれる。

つまり、感情が静まり、思考が整理されるこのタイミングは、相手が提案を自然と受け入れやすい状態になっている。

だからこそ、静けさに合わせて切り出そう。

「さて、ひとつだけ提案があります。」

コーヒーの香りが立つその瞬間ほど、この一言がまっすぐ届く場面はない。

相手との距離がほどけ、言葉がまっすぐ届いた瞬間

ある日、新しく担当することになったクライアントと、今後の方針を共有するために会食の席を設けることになった。

初対面の彼は、言葉少なで、どこか様子をうかがうようにメニューへ視線を落としている。

だが、料理が進むにつれ、湯気とともに表情の緊張がほどけていくのが分かった。

デザートの頃には、互いにドジャースの熱心なファンだと分かり、その話題で自然と笑みがこぼれ、声のトーンも仕草もやわらいでいく。

そして、コーヒーが置かれたその瞬間。

立ちのぼる香りに合わせるように、私はそっと用件を切り出した。

短い間のあと、彼は静かに頷く。

後日、「川島さんと席を囲んだあの日、気づけば本音で話せていました」と言われた。

その一言に私は、悟った。

交渉は言葉で押すのではなく、心が開く「場」を整えた時に、自然と動き出すのだと。

満たす交渉術 ランチョンテクニックが教えてくれること

ランチョンテクニックとは、食事そのものに魔法が宿っているわけではない。

温かい料理で緊張がゆるみ、距離が近づき、会話に静かな余白が生まれる。

その一つひとつが、相手の心を開き、言葉がまっすぐ届く「場」を整えていく。

数字や理屈だけで人は動かない。人は、安心できる空気の中でこそ、相手の言葉を素直に受け入れられる。

ランチョンテクニックが効くのは、胃を満たすことが目的ではなく、心が開く条件をそっと整える仕掛けだからだ。

イケオジは知っている。

説得とは押すことではなく、「相手が受け取れる状態になる」のを待つことだと。

そして、その状態は、料理の温度、席の距離、食後の静けさ―そんな小さな配慮の積み重ねの先に生まれる。

ランチョンテクニックとは、相手の心を準備させる、最も静かで確実な交渉術である。

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