- この記事を読むと・・・
 - フットインザドア・テクニックの基本原理が理解できる。
 - 小さな「YES」を積み重ねて信頼を築くプロセスが分かる。
 - 営業・交渉現場での活用イメージをつかむことができる。
 

イケオジ流交渉の奥義 フットインザドア・テクニック
ビジネスの現場では、社内提案や営業、パートナー交渉など、目的を果たすために「相手を動かす」場面がとても多い。
自信を持っていた提案なのに、あっさり却下された―そんな経験は、誰しも一度はあるだろう。
ここで切り札になるのが、フットインザドア と呼ばれる心理的アプローチだ。
心理学では、段階的要請法とも呼ばれ、小さなお願いから始めることで、相手が次の要望を自然に受け入れやすくなる効果がある。
交渉相手を押し切るのではなく、「YES」を少しずつ積み上げていくことが、スマートな交渉術のテクニックとなる。
なぜ「小さなYES」が交渉成功を引き寄せるのか?
フットインザドアという言葉は、1966年に心理学者ジョナサン・フリードマンとスコット・フレイザーが発表した研究から生まれた。
彼らは「小さな依頼を先に承諾すると、その後の大きな依頼も受け入れやすくなる」という現象を実験によって明らかにした。
人は、いきなり大きな要求を投げると、防衛本能が働いて「NO」が返ってきやすい。
一方で、自分が一度「YES」と言った行動には、整合性を持たせようとする心理が働く。そのため、最初の承諾が、次のステップへの橋渡しになるのだ。
信頼を大事に育てながら、お願いの範囲を少しずつ広げていく―この丁寧で穏やかな流れが、交渉を最終的な成功へと導いてくれる。
【参考情報:効果的な説得的コミュニケーションのあり方|オージス総研】
実践シナリオ ビジネス現場における活用方法
例えば、新しい社内ツールを提案する場面を想像してみてほしい。
最初から「全社で導入しましょう」と切り出すと、とかくコストやリスクの話に引っ張られて反発を招きやすい。
そこで、交渉のステップを3つに分けて進めるのが得策である。
まずは、「試験的に3日だけ使ってみませんか?」と軽いお願いから始めてみよう。
「まず3日間だけ試してみませんか?」と、心理的負担の少ない提案をする。
STEP2:効果を数値で示す
「3日間使った結果、作業効率が15%アップしました」とデータで説得する。
STEP3:次の「YES」を導く
「では、1か月間、対象部署を広げてみましょう」と自然にスケールアップ。
最終的に、「全社導入で年間コストを3割削減できます」と示せば、相手は納得してゴーサインを出してくれる可能性が高い。
このプロセスを踏むことで、相手は「自分で判断して進めている感覚」を得られ、結果として心理的な抵抗が起きにくくなる。
営業の現場で実感したフットインザドアの効果
私があるメーカーにSNS戦略を提案した時、会議室の空気は冷めていた。
「うちの業界にSNSは合わない」「炎上したら責任は?」―反応は硬い。
そこで、フットインザドア・テクニックの営業アプローチに切り替えてみた。
いきなり全社導入を求めず、「まずは、Instagramに1枚だけ、“採用チームの日常”を投稿してみませんか?」と提案。
費用もリスクもゼロ。心理的ハードルの低い「最初のYES」を狙ったのだ。
すると3日後、若手社員の反応が社内で話題になり、採用サイトのアクセスが約2倍に増加する。
その成果に社内の空気が少し変わった。「思ったより反応があるな」という声も上がり、ようやく耳を傾けてもらえる雰囲気が生まれた。
そこで、私は次の一歩として、「では、1か月投稿を継続し、効果をデータで確認しましょう」と第2の提案を出した。
積み上がった数字が説得力となり、ついに社長も納得。最終的にSNSブランディング全体の支援契約へと発展した。
この時学んだのは、交渉とは説得ではなく、共感のプロセス設計だということ。
小さなYESを積み重ねることで、相手の不安は信頼へと変わっていく。
効果的なテクニックがゆえに悪用されることも・・・
フットインザドアは本来、相手との信頼を積み重ねながら話を前に進めるための心理テクニック。
しかし、その効果が強力であるがゆえに、悪質商法にも使われてきた歴史がある。
たとえば、最初に「アンケートに答えてほしい」と軽いお願いをして警戒心を解き、その流れで高額な契約に持ち込む─そんな手口が、今でも後を絶たない。
もちろん、ビジネスで使うフットインザドアは、これと全く別物であることは言うまでもない。
大切なのは、確実に段階を踏みながら相手の判断をサポートし、合意までの道筋を分かりやすく示すことである。
【参考情報:悪質商法と心理学|日本心理学会】
YESを積み重ねて成果をスマートに掴もう!
交渉は、決して相手をねじ伏せる「勝負」ではない。
むしろ、相手と同じゴールを目指しながら歩みをそろえていく共同作業に近い。
信頼を積み重ね、「YES」をひとつずつ拾っていく過程には、駆け引きだけでなく、相手を理解しようとする誠実さや、ゲームのような遊び心があってもいい。
そうした雰囲気があるからこそ、相手も心を開きやすくなる。
フットインザドア・テクニックを上手に活かせば、今は壁に見える課題も、一歩ずつステップを踏むことで驚くほどスムーズに進むはずだ。
落ち着いた笑顔と確かなデータを武器に、交渉をスマートに成功へと導こう。それが、ビジネスの現場でイケオジたちが実践している交渉の常識である。

上場企業の部長職を45歳で早期退職。キャリアで磨いたマネジメント思考を軸に、自分の人生を再設計するステージへ。
「イケオジ=肩書きに頼らず、知性と余裕で生きる。」そんな大人の思考術やノウハウをブログやSNSで発信しています。

